夏の月夜と狐のいろ。



「何でだ・・・」

クロは心底嫌そうに、首をふった。


その表情は苦痛に満ちたものだ。

オッドアイが、揺れる。

そして、うつむくとクロは後ろにゆっくりと下がり、アザリアのほうを向いた。


「待たせて悪かったな。僕はもう下がる」


クロはふらふらと背をむけて、神父の傍まで下がった。
前髪に隠れて、もうその表情は読み取れない。



クロは私達が人間とともに生きていかない事を、最後まで期待していたの?
シアンの心がぎゅっと締め付けられた。



クロが完全に移動をおえると、アザリアがこちらへ近づいてきた。

龍の赤い瞳が、ばかにしたように揺れる。



『かわいそうに。クロは信じてた、最後まであなたたちを。
生きられないの、私達は人間と。わからないの?』


アザリアはあわれっぽくそう言うとぶんっと長い龍の身体をもちあげた。



『つぶしてあげる、かわいそうな獣達・・・あなた達を。』



シアンははっとして上を見上げた。

巨大な龍のものであるからだが、すぐ上にある。


これが叩きつけられたらシアン達はただではすまないだろう。

けれど、もうシアンもリリィもレオンも、指先ひとつ動かせない。



『サヨナラ』




むなしくアザリアの声が響いて、あたりに轟音が轟いた。