夏の月夜と狐のいろ。


シアンは飛びつき、力をこめようとした。けれど。


『あ・・・れ・・・?』


ふにゃりと突然力がぬけ、シアンはそのまま前のめりに転んだ。
立ち上がろうとしても力は入らず、ただ手足が震えるだけで。


ちらっとあとに続いてきたリリィを見ると、リリィも同じように動けなくなっていた。

同じくレオンもさっきの場所で耳を寝かせ、喉の奥で唸りながら伏せている。


シアンがぐぐっと頭だけを無理やり持ち上げ、アザリアを睨みつけた。


『何を・・・したの・・・』


シアンが途切れ途切れに言葉をしぼりだすと、アザリアはノエルをもと座らせていたイスに戻し、にこっと微笑んだ。


ひとまずノエルが殺される心配がなくなったとはいえ、完全に危険な状況だ。



アザリアはにこっと笑った後に全身を龍のものに姿を変え、その場でとぐろを巻いた。


薄紫色のたてがみがさらさらと揺れ、その姿はなるほど、高貴なものだ。



アザリアはぐいっとこちらに顔をよせ、凛と響く声で言う。


『すでに知っていた、あなたたちがここに来ることは。
だからここに来るまでの路地裏に仕掛けをしておいた。』



アザリアはふふんと楽しげに龍の身体を動かし、その先でリリィに触れた。


リリィは小さく電流を放ち、警戒するがその力は弱い。


アザリアはそんなことなど気にせずに続けた。


『仕掛け、それは遅効性の毒煙。今きいてきたのね。
気づかないなんて、とんだおばかさん』


シアンはかすむ目でクロのほうを盗み見た。




クロはこのことも知っていて、私達をあの路地裏に呼び込んだんだ・・・!




シアンの中に悲しみと怒りが広がった。