夏の月夜と狐のいろ。



「クロ!!やめて!!」


シアンはぞっとして目を見開き、クロに向かって叫んでいた。

それでもクロはこちらを見ずに、ただナイフにこめる力を少し強めた。


少し食い込んだナイフがノエルの白い首元に赤い線をつくり、そこから小さく血がこぼれだす。

その血はぽたり、ぽたりと床に赤い水溜りをつくっていく。



「やめてよ!ねえクロ!どうして!」


シアンは尻尾を伸ばし、ノエルを助けようとした。

けれど鋭利な尻尾の先がクロに触れる瞬間、ほとんどのものが切れてしまうようなほどのシアンの尻尾を何かがガチリと止めた。



クロの前に立っているのは、さっきのアザリアという修道女。


そしてその頭にあるもの。それは。




「つの・・・!?」



龍のもつような立派な角が、ヴェールを脱いだアザリアの頭に二本にあり、それがシアンの刃物のような尻尾をとめていた。


どれだけシアンが力をこめても、その角はびくともしない。


薄紫色の毛を揺らしながらアザリアが楽しそうに微笑んだ。


「無理だよ あなたのしっぽじゃ。 私の角と あなたの尻尾。
高度は同じ、いくら力をこめても無駄」


アザリア瞳孔が蛇のように細くなり手がうろこのようにきらめいた。


シアンはそれを呆然と見つめる。



「私は龍。高貴ないきもの」


アザリアがそう言った瞬間ぶわっと激しい風がふき、シアンはずるずると後ろに飛ばされた。