ハルは、言う。



「もう一人で、大丈夫だから」



それが、最近のハルの決め台詞。



「カナは、自由にして」



そうは言われても、オレは自由意志で、ハルのところに来るのを選んでいる。

今だって、十分すぎるほどに、自由だ。



「ムリにわたしに付き合うことないから」



いや、ムリなんて、カケラもしてないし。



ハルの鞄を持ち、

たまにハルの手を取り、

ハルの歩調に合わせて、

ゆっくり、おしゃべりしながら歩く。



オレの肩の位置に、ハルの頭が見える。



ふわっとした柔らかい髪が揺れる。



くるんと巻いたつむじが見える。



「ねえ、カナ、昨日の夜ね、」



と、ハルが上を向いて、オレの方を見上げ、他愛もないことを話す。



大きな目がくりくりと動き、赤い唇がオレの名を呼んで動く。



思わず、頭をグリグリなでると、



「やだ。髪の毛、ぐちゃぐちゃになっちゃうよ」



と、笑いながら、ハルが頭を動かす。



ハルの机まで、鞄を運ぶと、ハルが、



「ありがとう、カナ!」



と、満面の笑みを見せてくれる。



オレは、ハルのそんな笑顔を見ると、胸がほわっと暖かくなって、幸せで、幸せで……。



つい、この前までは、そんな幸せな毎日が、高3になるまで続くのだと思っていたのに。



学校公認カップルと言われ出して何年だろう。

小学校の高学年頃には、もう言われていた。



「ハルちゃん命の叶太くん」


 
そう言われていた。



それなのに、どうして、こんなことに?