「……そう」



おばさんは、ささやくように言った。

オレもツライけど、おばさんだってツライに違いない。



「じゃあ、今日は、何があったの?」



発見したときに、ハルがどんな状態だったのかは伝えた。

だけど、ハルがなぜ倒れたのかは、言っていない。



たぶん、田尻との間に何かあった。

それは確か。

逆に言うと、それしか確かなことはない。



オレにも分からないことだらけだ。



「ごめん、おばさん。オレにも分からないんだ」



そんなことしか言えない自分が情けなかった。



「そう」



数秒の間の後、おばさんはオレの肩をポンと叩いた。



「叶太くん、今日は、もう帰りなさい」



「このまま、ここにいちゃ、ダメ?」



ハルの手を握りしめたままに言うと、



「親としては、いさせてあげたいし、いて欲しいけどね。ICUだから」



ここに入れてもらって、ハルに会わせてもらっただけでも、十分だと思わなくてはいけない。

そうは分かっても、手が離せない。



「叶太くん」



再度、言われて、ようやく、立ち上がった。



「ハル、また来るよ。それまでに、目を覚ましていて」



ハルの耳元でそうささやき、オレはおばさんに連れられて、ICUを出た。