お母さんが出て行った後、広瀬は無言で、固い表情を崩そうとしなかった。
相当、イライラしてるな。
広瀬の険しい顔を見て、そう思っていると、
「くそーーーーー!!」
広瀬が突然、うめきながら、頭をガシガシ、両手でかきむしりだした。
「おい、広瀬!?」
オレの呼びかけには答えず、今度は、バンッとテーブルに手をついて、勢いよく立ち上がる。
「ちょっと、叶太くん! こぼれちゃうじゃない!」
と、寺本は、ティーカップの受け皿に溢れた紅茶の方を気にしている。
……気にするの、そっちか?
広瀬は答えず、そのまま、広い部屋の奥、窓のところへとズカズカ歩いて行ってしまった。
窓の外を見る背中が、怒っている気がした。
何に怒ってる?
たぶん、自分自身に。
小声で、
「もしかして、牧村んち?」
と言って、広瀬の背を指さし、寺本を見るが、寺本も首を傾げた。
オレたちは顔を見合わせて、同時に立ち上がると、広瀬の元に向かった。
広瀬の肩越しに、外を見ると、確かに、さっきの純和風の屋敷が見えた。
二階から見ると、広さが際立つ。
錦鯉が泳いでそうなでかい池。
築山の向こうには茶室。
離れもらしき建物。
燈籠に、ししおどし。
絶対に植木屋さんが手入れしてるだろって感じの、枝振りの良い松の木。
完全な、日本庭園。
外からも見えた蔵は3つ。
……広すぎだろっ!
だけど、その立派さ加減への驚きが冷めて、冷静に広瀬を見ると、広瀬が見ているのは、別の家だった。
純和風の屋敷の裏に立つ、これまた立派な白い石造りの洋館。
一本裏の道に面したその家を、広瀬は、微動だにせず、凝視していた。



