その日が照らしだしたのは、陰陽印。

そしてその紋が抜かれた緋色の衣と、袖の無い白い水干が、黒に覆われた夜に浮かび上がる。

 白い乱髪が、その火の光を受けて赤っぽく光った。



 神薙である。



 荘厳さを失いつつある巨大な羅生門の頂に蛙のようにしゃがみこみ、

首かみ紐を結わぬままほったらかされた紐が、風に撫で上げられる。

身長のわりに幼い顔に浮かぶのは、無表情。

 
 何かを考えてはいるのだろうが、それが掴めない。

この幼い顔は実は被り物で、それがはがれた時、内側から想像もつかぬものが顔を出す、


とでも言うように―――だ。


 実際、神薙は思いつめているわけではなかった。

 今夜もまた、冥界から幾人か死人が戻ってくるであろう。

それを、見ている。

 つうん、と鼻を突く香の臭いは邪魔で仕方がない。

この臭いは、神薙たち妖かしたるものの嗅覚を鈍らせる。狂わせる。

しかし、その臭いと共に漂うのは、生暖かさを感じさせる土の臭いだった。


 その臭いは、今でも平安京を包んでいる。


 死人が蘇ってきたのだ。

 今頃、怪事に関してのことを担う陰陽寮は、帝だの内裏だのと大騒ぎだろう。

 妖かしたちは、その気になればいつだって、たやすく大内裏内に侵入できるし、内裏にだって、入り込めてしまう。


 それをしないのは、面倒くさいからということと、貴族どもが大げさに騒ぎ立てて、

「晴明を呼べ」「晴明を呼べ」などとすがるように騒ぐからだ。

だらしなったらありゃしない。


―――しかし。


 神薙は、先日の逢魔ヶ刻のことを想起した。