けなしているのか指摘しているのか、いまいち掴めぬ言い方である。

 
 それでも清明は何か文句を言うことなく、ちょろちょろと先の割れた舌を出しては引っ込める妖蛇に、


「匂いが強いのは、左京なのか」


 と、確認するというよりも、もっと細かな、

この匂いや異常事態の発端に関する応答を求むように問うた。


「他の奴らは大宮大路と樋口小路の辻が一番酷い臭いだと言っていたがねえ。


わしとしちゃあ、ちと信じがたい。

 
先んじてるのは噂さ。人も妖かしも。形違えど、中身は何も変わっちゃいない。


噂に頼らざるを得ない世の話、背びれ尾びれはつきものさね。


清明の坊ちゃんよ、簡単に信ずるでないぞ」


 噂による情報は信用ならぬ――そう言おうとしたのであろう。

 
「だが、清明の坊ちゃんよ。今からわしが言うことは、紛れもない真ぞ」


「坊ちゃんではない」


 訂正を迫らんばかりに苦々しい顔になる清明を黙殺し、妖かしはふと空を見上げた。


「昨日なあ、真っ赤な気持ちの悪い紅蓮の怨霊が飛んでいくのを見たのさ」




 不気味な怨霊であった。


 目玉はなく顔にあるのは窪みのみ。


全身焼けただれたような朱色で、煙に似た同じ赤色の瘴気を身にまといっていた。


犬のようにべろべろと長くぶ厚い舌を垂らしながら、


老若男女複数の声が入り混じったような悲鳴を上げ、


妖かしたちがいた上空の宵の空を、


真っ二つに掻っ切る勢いで、その巨大な赤い怨霊は駆けて行ったのだという。



「えっ、真っ赤な色をした、焼けただれた怨霊?」


「左様」


「ああ・・・」


 清明にはこれでもかというほど、心当たりがあった。


妖かしが語る怨霊の姿と、先日、遠子の中から追い出した件の物の怪の姿が酷似していたのである。


 何を隠そう、妖かしが見たのは清明が追い払った物の怪だ。