なんでいきなり人の前を通るのだ、と悪態をつき、天冥は体勢を整える。

女は、いてて、とばかりに華奢な体を起こす。

女の髪は艶やかに背中下まで伸ばされている。

体はえらくほっそりとしており、簡素に男の直垂と色の薄い袴を身にまとっている。

庶民の服装の模範である。


「申し訳ありません・・・」


 言いながら女は背負っていた籠から出てしまった草を拾う。

 その女の声には、ひどく聞き覚えがあった。

そう、顔を見たときから天冥は瞳孔を見開いて固まっていた。


 

 女の肌は白く、妙齢だろうに肌には幼さがある。

淑やかな雰囲気だが少女のようでもあり、丸い目はことのほか大きい。

小さな顔にある頬には、頬と同じ色が宿っている。

 胸こそ特に膨らんではいなく未発達であったが、女性特有の身体つきとうかがえる。



 莢である。


 道祖の、当の十一年前に鬼籍の者となったであろう、薬師の莢だ。


「莢・・・」


 思わず、天冥は口にした。

いつもの調子ではない、少年のような声が出た。

驚愕でも悲哀でもない、そして喜びでもない。恋い焦がれにも似たものが天冥の中から湧き出てきたのであった。