「強気な姫様、残念ながら清明様はお人好しで女のようでも、やはり男にございますし、

下級役人にどうにかできる話ではございませぬ」


 妥協を許さぬ毒舌っぷりを炸裂させながら、またまた蓬丸が急に出てきて言う。

一年前よりも、口の強さにだけは磨きがかかっているらしい。

しかし言う事は、事実そのものである。


「そっ、その通りにございます」


 蓬丸の毒舌が、清明にとっての助け舟となった。

絶対に遠子が強い口調で何か言い返してくる。


そう覚悟を決めていた清明だが、遠子は非情にすっきりとした表情で、


「確かにそうね」


 と、あっさり飲み込んだ。

 やはり、愚痴が吐けた事が最大の満足だったようである。


「なんだか全て吐き出して、すっきりしたわ」

「物の怪は、怖くは無かったのですか」

「私は、何があっても怖がらない事に決めているの。これは絶対よ」


 ああ、遠子様が言うんだから本当だろうなあ。

清明は正直な遠子の性格から考えて、確信に近いものを抱く。


「けれど・・・少し驚いたかもしれないわ。あの物の怪に」

「それが普通にございますよ」

「あなたのおかげで、正気を保っていられたのよ」


 遠子は、たしなめるように言った。


「落ちこぼれ陰陽師なんて言われているけど、できるじゃない」

「いいえ、調伏をしたわけではありませぬから・・・」


 引っ込み思案で控えめに言う清明だが、別に遠子は褒めたつもりはない。

あまりに以前の評判が悪すぎて、ここまでの出来が意外だったのだ。


「清明、もしまた物の怪が出るようなことがあったら」

「はあ」

「あなたに、任せていいかしら」


 ええっ。

 ぎょっとして顔を上げる清明の傍らで、蓬丸がにこりと嬉々として微笑んだ。


「名誉挽回でございます」