「・・・」


 誰よりも困り、誰よりも人に助けを求めているのは、紛れもない清明自身である。

それを察したらしいはずの忠親のはずだが、この男、良しか悪しか、見た目通り娘には甘いようだ。


「――では、頼んむぞよ、清明」


 目を逸らして言ったところを見ると、どうやら忠親自身も清明の肩身の狭さに同情しているように見える。

いや、清明がこのような顔をしていたからこそ、この陰陽師なら安心だと確信したのかもしれぬ。


 清明はもともと低い腰がさらに低くなってしまった様子で、渋々と部屋に足を踏み入れた。

 遠子は物腰よくそこに座する前に、清明の逃げ場を失わすように、ぴしゃり、と戸を閉鎖してしまった。

完全封鎖。

清明は余計におろおろとしだしかける。

 隙間からは強い光の筋が差し、それだけが部屋の中を照らす。

それは強く両方から張った檜色の羽衣に似ている。


「・・・何用でござりますか、遠子姫」


 遠子は清明の前に姿勢良く座し、折れ曲がった袿の下のほうを整えることなく清明を見た。


「いちいち堅苦しいから、姫などと呼ばなくてもいいわ」


 がつんっ、と岩の如き言霊が清明の顔面に直撃した、ような気がした。


「・・・遠子さま。また、物の怪が出たのですか」


 清明は唐突に、もしかすると本題はこれなのではないかという件の話を持ち出した。