清明が慇懃に言うと、遠子は、


「あまりに遅かったからくたびれてしまったわ」


 とあっさりと毒を吐いた。

蓬丸に負けぬほどの毒舌だ。

 それでも、さすがは蓬丸の罵詈雑言を聞いてやっている清明である。

めげることなく、「申し訳ありませぬ」と苦笑して見せた。


「部屋に入って。話をしたいことがあるの」


 簀子に上がるや、緋色の長袴を引いて自らの部屋に入っていった。


「父上・・・お願いがございます」


 遠子は睨んでこそいなかったが、突き刺さるような視線で忠親を直視した。


「清明と話している間、しばし外に出ていては下さりませぬか」

「えっ」

「えっ」


 清明と忠親が同時に素っ頓狂な声を上げた。

いくら清明が女のように物腰がよく美しいとしても、やはり男である。

源氏一門に嫁ぐであろう姫が、容姿以外に良い評判など聞かぬ陰陽師と二人きりにしてくれなどと言うのだから、

他人でしかない陰陽師でさえ目を驚愕で彩った。