「それで、姫様はなんと仰っていたのですか?」

「そなたに会って話がしたいとかで、また右京に言ってもよいかと聞くから、では文でそなたを呼ぶのではだめか、と言うたらやっと首を縦に振ったのだ」


 それは正しい選択だった。

物の怪を呼びやすい人間ならば、なるべく幽虚は避けたほうが良い。

娘を思う父とあらば最善の選択であった。

 彼に連れられて遠子がいるであろう部屋まできた。

庭には遣り水などは流れていないが、それでも中流貴族ほどの敷地の広さはある。

敷き詰められた石が眩しく、晴天でなかった事だけでもありがたく思える。

 遠子が待つ部屋の障子が開けられる。

しかしなんと、その呼び出した側の遠子がそこにいないではないか。


(ええっ!?)


 さすがの清明も驚いて目を見開いた。

貴族の姫は滅多に外には出ない。

手玉や絵合わせをしている事も多いので、外に出るなどほとんど無い。


「と、遠子」


 心配性と思しき父親の方は、清明よりも驚いた様子で口を開いた。


「もしや、また物の怪・・・」


 などと、いい加減、ノイローゼにならんばかりの疲れ果てた様子で遠子の父は呟いた。

もちろん、こんな白昼堂々と物の怪が姿を現すはずも無い。


「父上・・・私はここでございます」


 呆れ返った声で言ったのは、庭の、草が茂っている部分に立った遠子だった。