件の屋敷まで行くのは面倒この上なかった。

屋敷の場所がわからないので道行く人の皆々様に聞きながらまるで迷路から脱出するようにそこまでたどり着いたのだ。

 晴明ほどの官人であれば牛車を使用する事もできたろうが、残念ながら清明は官位大初位のただの役人である。

 だからどれほど遠い道のりであろうと足を使わなくてはならぬ。

 本当に面倒だ。

 唯一の徒歩の利点と言えば、牛車よりも早く動けるということと、車酔いをしないことだけだった。

 総門の前に立つと、案内の者が中へ入れてくれた。

中で迎えてくれた男を見ると、清明は自分と文の相手との共通点を理解した。

昨晩の、遠子の父である。


「あなたは、昨晩の」

「昨晩の事は礼を言う、本当に助かったぞ」


 貴族と言うとなんとなく高慢さの滲んだ顔を思い浮かべるが、目の前の男はなかなかの温容で、

もっと行ってしまえば少し甘そうな顔立ちだった。

目は常に笑みを浮かべており、垂れて瞳が覗えない。


「また、なにか憑き物がでたのでござりますか?」

「いや・・・そなたを呼んだのは遠子のほうなのだ」


 すっかり目の前の男が呼んだのかと思っていた。