清明の側からすれば、ここに入られても野放しにされていても、彼に突っかかられることは間違いない。

あまり喜ばしいことではない。


《清明様、今の話、本当でございましょうか?》


 蓬の葉の姿となって清明の懐から問いかける。

嘘と考えるのが普通だが、天冥は悪く言うと普通ではない。

変人というよりも変わり者で、内裏の者たちや貴族、悪徳な役人をひどく嫌う。

しかもそれらに対しては酷く容赦がない。

外道で、変わり者という人を悩ます種を掛け合わせたような人間だと、陰陽得業生は言っていた。


「――おそらく、彼の性格からして嘘ではなかろう」

《貴族の考えることは分かりかねませぬが、

外道の考えることも分かりかねませぬ》

 
 蓬丸は小声で懐でぶちぶちと、両者の悪口を並べている。

 清明は公文書を数冊運び終え、陰陽大属の指示を受けて次の仕事に回る。


「泰成(やすなり)殿はどこへ?」

「天冥と話してみたいと言うて、中務省の方に行かれてしまった」


 泰成――橘(たちばなの)泰成という若年の陰陽博士である。

なかでも優秀な才を持ち、今の陰陽生の憧れの的だ。

あくまで一時的なものかもしれないが、それでも清明が手を伸ばして獲得できるような名誉ではない。

そんなものを、泰成は持っている。


 
――心配になってきた。


 清明は心のどこかで思うのだった。