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「天冥が断っただと?」


 陰陽頭の小さな怒号が、静寂な陰陽寮に木霊する。


「なぜじゃ、官人陰陽師として宮廷に仕えたくないというのか」

「昨日、奴の式神らしきものが断りの言伝を・・・。

やつは今中務省の前におりますが、何も動じた風もなく・・・」


 その会話は清明にも聞いて取れた。

前から耳にしていた話題である。

 なにしろ天冥は都を騒がす厄介者の陰陽師である。そこで対策として陰陽寮が出した妙案はこうだ。

 天冥に正式な官位を与え、陰陽寮に引き入れ手中に収める――と。

 しかし、それに天冥は応じなかった。

 天冥ほどの陰陽師であれば、寮に入れば確実に良い地位を取れるであろうに、誰もが望む誘いを、天冥は断ったのだ。

昨日、百鬼が大内裏の方角からやってきたのは、言伝の帰りだろう。