別にその貴公子が悪いわけではない。顔の作りは薄いが気心のある男である。

 それを知っていてもなお、遠子は嫌だというのだ。



 右京に出るのも禁じられている。

婚礼にも父は喜んで応じている。居場所が無い。

遠子は部屋に閉じこもったままでいた。

もともと異形を引き付けやすい人間の一人であったが、最近になって特に、物の怪に憑かれるようになったのだという。


「――それでまた此度も、このようなところまで」

「そのようね・・・」


 遠子は冷静だった。二つ年下とは思えぬ。



 そう思った刹那、清明はびくりと肩をすくめた。

妖気、呪力を感じる。突き刺さる無数の針に似ている。何かが子の方向にいる。くる。

凄まじい勢いであった。


「・・・姫様、とりあえず話すのは止めて、屋敷に戻られよ」

「なにがあったの」

「お早く」


 清明は少し控えめに遠子の背を押し、もと来た場所へと進めた。