* * *


 木辻大路にある家に戻り、清明は大いに肩を落とすや、段差に腰をかけた。


「・・・私は色々と、月見には縁が無いのか」

「悪運には縁がありますのにね。理不尽な世の中」


 それは世の中というものに言っているのではなく、清明だけを、清明の人生だけに対して言っている。

理不尽なのは世の中ではなく、蓬丸が嘆いているのは清明の恵まれぬ境遇に対して、だ。


「もう嘆くのはやめよう、言葉には力がある。言えばいうほど邪気が集まってくる」

「陰陽師に邪気は付きものですよ。それに右京には――妖かしも・・・」

 
 言いかけ、蓬丸はふと耳をぴくつかせた。いや、本来人の耳はぴくぴくと動きはしない。

それは蓬丸の反応の例えである。


「妖かし・・・」


 蓬丸は目を見開いていた。

数秒遅れ、数人の人の声が清明の耳に飛び込んだ。


「遠子!」


 聞いた刹那、清明は飛び出した。

少なくともただ事ではない。無い上に、妖かしの気配がある。


「どうなさった」