今の己は、宵の空の下で闇と同化して生きる妖物である。

 その妖物の今の名を、神薙(かんなぎ)という。


「むう!?」


 姉が住む屋敷から、禍々しき呪力を感受した。

屋敷の者たちが騒ぐ声が、遠く離れているにも関わらず、すぐ目の前で聞いているように聞いて取れる。


「遠子さま、どこへ行かれるのですか、遠子さま!」

「遠子!待つのだ遠子!」


――姉上、父上!

 神薙は瞠若した。

 もしやまた、物の怪の仕業であったか。


 神薙が力いっぱいに屋根を蹴り上げると、その痩躯が月の逆光で影となった。