* * *


 闇の中で映える白い水干に、袖は無い。

中にまとった紅い着物の袖が、鬼火を深紅に照らし出す。不潔さを感じさせない白髪が月光を弾き返す。

その髪は他の男よりも短く、うなじほどの髪は乱髪である。


 その深紅の着物の袖に入れられた紋は陰陽印(おんみょうのいん)、緑色の瞳が暗黒に光る。


 そびえる陽明門の屋根の上から見つめる都の、汚らわしい事山の如し。

 
 
「姉上・・・」


 痩躯の若者は、なんと屋根に乗っかっているのである。乗っかり、そう呟いた。

その様子は切なげである。


「姉上・・・。元気にしておられますか・・・」

 
 いや、元気にしていても、この夜と言う世界で、姉は元気でいるはずはない。

近々小耳に挟んだ話、姉は物の怪に取り憑かれたという。

そのせいで夜な夜な物の怪に操られ、奇奇怪怪たる現象に見舞われている。

 そんな姉が気がかりでならぬ。

 しかし―――だ。


 自分は人外なるものである。

 もう人ではないのだ。

姉上もきっと、もう己を人とは見てはくれまい。