間一髪いれずして飛び掛った蓬丸の腕を引っつかむや、百鬼は手加減など無しに蓬丸を投げ飛ばした。


「ぎゅう!」


 築地にしたたかに体を打ちつけた蓬丸は、なおも疲れた様子など無く独鈷を取り出す。

そこで清明がその両者の間に入った。


「やめよ蓬丸。そなたも・・・」


 必死さの滲む形相で止めに入った清明に対し、百鬼が暗黒の中で唾を吐く音を立てる。

それが蓬丸の逆鱗を撫で上げたが、蓬丸は己の心に制御をかけた。


「・・・百鬼、勝手なことをして、天冥に怒られたりはせぬか」

「どの道天冥さまは明日にはふらりとこの都に姿を現す。

・・・予告をしておいてやっただけありがたく思え」

「なんだと!?」


 割って入る蓬丸だが、一度清明を見やって静まる。


 そんなことをしている間にも、百鬼は鼻を鳴らして両翼を広げ、一羽虚空に消えていった。

「次に会ったらただではおかんぞ、このっ、化け鴉!!」

 
 うおおおん、と遠吠えをするように蓬丸は百鬼に向かって吠え立てた。

いくら人が少ない幽虚とはいえど、妖にとってはご近所迷惑である。