「天冥様、道満(どうまん)が――」

「わかっておる」


 聞きたくもないとばかりに、天冥は百鬼の言葉を遮った。


 道満――蘆屋(あしや)道満である。

晴明と敵対したライバルとされ、歴史的に有名な法師陰陽師だ。


 天冥に東囚獄から逃げ出すことをすすめたのも、今まで何度となく彼に方術を教えたのも、ほかならぬ道満である。

天冥からすれば、師とも呼べるものであった。


 天冥が騒がす都、道満にとってはさぞ楽しかったであろう。

 満足したのか、つい数か月前に、道満は播磨(今の兵庫県)にて没したらしい。


「黄泉で見ておらるるか、道満どの」


 ぼそりと天冥は言い、都を一瞥した。


「この都は、俺がいる限りは平安を迎えることはありませぬぞ。

この、外道の貴公子がいる限りは」


 そうとも、天冥が死ぬまで、この都のどこかで、貴族は死に続ける。