天冥――もともとの名を『多優(たゆう)』という。

どこぞの国に属する小さな集落に生まれ、もとは優しき心を持つ子供であった。

その集落は、属する国に謀反の疑いがかけられていたため、その見せしめに滅ぼされたのだ。


幼き彼がその時使ったのが、方術。


 すでに凄まじい才を持つ彼は、集落の者たちを守らんとして、方術で兵どもを殺したのだった。


 結局捕まり、平安の都の東囚獄(ひがしのひとや。刑務所のようなもの)に収容されていたが、

十年ほどして逃げ出し、姿をくらました。


 そして今、天冥という人間に成り、都でも多優は死んだことになっている。

 天冥は見かけこそ若々しいが、今年で三十一歳である。


「天冥様」


 上空から、巨大な鴉が天冥の周りを舞った。


 いや、鴉と呼ぶにはその姿は異様である。

体は人を乗せて飛べるほど大きく、体こそ黒いが、光に照らされると赤紫色の光沢を放つ。

目は猛禽の瞳、左目がつぶれているのか、頭の半分に布が巻かれている。


 天冥の式神、鴉の化生・百鬼である。


 人の姿となればその身の丈は七尺ばかり、

黒髪を結い上げ、童顔の顔だが目は猛禽、左頬には交差するような傷があり、

僧の衣を身にまとう。