天冥(てんめい)は烏帽子を取り、八の字になっている気取った風情の付け髭を外した。

夕暮れの陽だまりに、夏蜜柑色の狩衣が映える。

降ろされた肩より下の細い、赤毛混じりの茶髪が照らされて光る。


 高い木の枝に腰を掛け、平安の都を一望した。

 正直なところ、あまり良い眺めとは思えない。

 確かに見た目こそ綺麗であるが、この都には下人や平民の骸が溢れ返っており、

その骸を獣が喰い、鳥が目を啄むのだ。

竜頭蛇尾。

いくら美しき都も、中身を覗いてみればただの手入の行き届いていない箱庭だ。


 華やかなところがあるとしても、そこは貴族どものはびこる修羅場、伏魔殿である。


「汚い都じゃ・・・」


 天冥は吐き捨てた。

 美しく着飾った、穢れた都だ。

 この日本国の政治も、もはや貴族の赴くまま、好きなように動かされる。

――小さな集落の一つや二つ滅ぼすことも、あの者どもが良いと思えば、実行されるのだ。

 

 あのような貴族どもなど、殺そうと思えばいつでも殺せる。

天冥にはそうすることができる力は十分に備わっていた。



 なぜ殺したいと思うか?


 単純に、嫌いだからだ。