「・・・ほんの指折り数えるほどでは、だめ?」

「清明様、好きにもほどというものがありましょう。

去年に至っては、外に出てまで月を見に行って、

怪しまれて検非遺使(けびいし)の役人どもにつかまってしまったではありませんか」


 確かに、あれは苦い思い出だ。


「ですからだめ。今度こそはだめ。

ここから見えるのだから、ここで見ましょう」


「―――」

 
 主の清明よりも、蓬丸のほうが勝ってしまっている。

清明は口を極限まですぼめて、清明なりの対抗心を表情で表して見せる。

この時ばかりの清明は、さすがに引き下がらない。


「本当にだめ?」

「こんな時間に出て行って、検非遺使の役人どもにつかまってしまったら、たまったものではありませんからね」

 
 顔を出しながら踏ん張って見せるが、しばらく互いを真摯に見つめあった結果、

珍しく、折れてしまったのは蓬丸であった。


 母親の束の間の甘えについ気を緩めてしまう娘のようなものである。

 そういう場合は清明に勝てない。