幕末オオカミ



「油断したな!!」



浪士が、沖田の懐に飛び込む。きらりと、何かが光る。


それは、短刀だった。隠し持っていたんだろう。


それが、沖田の腹をえぐった──


ように、見えた。



「……てめぇは、武士の風上にも置けねえな……」



短刀は、かすりもしていなかった。


沖田につかまれた浪士の手首が、ぎしぎしと軋む音がする。



ひゅうと、秋の風が、沖田の長い髪を揺らす。


頭上の雲が晴れ、月が顔をのぞかせ……。


一瞬、あたりが明るくなった。


それを、沖田は見上げる。


浪士の手をつかんだまま。


綺麗な顎の線が、月光に照らされた。




「ひ、ひいい……」


「……俺を、月夜に怒らせた罰だ」


「あ、あぁ、あ……」


「死んでもらおう」




そういった沖田の身体が、突然きしみだす。


何が起こっているのか、わからなかった。


あたしは、ただ……


目の前の光景に言葉を失い、その場に立ち尽くした。