土方副長は、両手を組んだまま、背の低い陽炎を見下ろした。
「犬……ねぇ。
悪いが、餌付けされた記憶はねぇな」
「副長……」
「俺達の面倒を実質見てくれているのは、会津候松平容保様だ。
上様は、俺達の名前すら知ってるか、怪しいもんだぜ」
自嘲気味に笑う副長を、陽炎はにらみつけた。
「お前達の主君は、上様ではなく、松平だと言うか」
「あぁ。薄汚ぇ忍が、呼び捨てにしていいお方じゃねぇんだよ」
えええ、そんなこと言っていいんですか、副長。
それは幕府への謀反と捉えられますって……。
陽炎の顔が、みるみる怒りに歪んでいく。
「その言葉、そのまま上様に伝えてやるからな。
楓は新撰組が監禁していることにしてやる」
「ほう。ということは、まだ上様は小娘がどこにいるか知らぬというわけだな。
これで遠慮なくやれる」



