幕末オオカミ



土方副長はあたしから手を離すと、「座れ」と命じた。


あたしは素直にそれに従う。


副長の雰囲気がいつもと違い、怖さとは別のものを感じたから。


黙って言葉を待っていると、副長はため息混じりに口を開いた。



「……お前が脱走しても、総司は喜ばねぇぞ」


「……!!」


「むしろ、余計な手間がかかって嫌がるだろうな」



……どうして。


何も言ってないのに……。



「俺を舐めるんじゃねぇぞ。

お前がこうするんじゃないかって予想はついていた」


「そんな……どうして」


「考えることが単純なんだよ」



土方副長は腕組みをして、あたしを見下ろす。



「お前がどう思おうが、俺はお前を隊から出す気はねぇ」


「どうして……なら、切腹にするべきでしょう?」


「わかってねぇな。
お前は切腹にするより生かしておいた方が、隊のためになるんだ」



隊のため?


全く意味がわからないあたしは、マヌケに口を開いてしまう。


そのあごを元に戻しながら、土方副長は言った。