幕末オオカミ



「副長……!!」



どうして、土方副長がここに?


いつもは隊士の部屋なんて、来ないのに……


着物や荷物が散乱した部屋を見られて、全身の血の気が引いていくのを感じた。



「……てめぇ、まさか脱走なんか考えてねぇだろうな?」



ガラの悪い江戸弁が、部屋に重く響く。


副長はふすまを閉め、あたしに近づいた。



「あ、あの……これは、大掃除で」


「嘘つきやがれ!」



土方副長は突然、あたしの着物の襟を開いた。


そこには、襦袢ではなく、忍装束がある。


着物と袴より、その方が逃走しやすいから。


屯所を出たらすぐ着替えようと思って下に着ていたのが、あっさりばれてしまった。



「俺を納得させられる、説明ができるか?」


「……できません」



獲物を狙う、鷹のような鋭い瞳。


ああ、終わった。切腹だ。


あたしは覚悟して、素直に答えた。



「どうぞ、処断してください」


「……誰が、いきなり切腹にすると言った?」


「えっ?」


「未遂だからな。切腹にはならねぇ」