幕末オオカミ



気づけば、ぼろぼろと涙がこぼれていた。


胸に何かがつかえるような苦しさを抑え、あたしは急いで部屋に戻った。


幸い、斉藤先生もいない。


早くしなきゃ。


あたしは手当たり次第、自分の忍び道具を着物に隠した。


風呂敷なんか持ってたら、目立ってしまう。


お金だけ持っていって、どこかで女装すれば、陽炎の目も少しはごまかせるはず。


涙をふいて、財布を確認。



「…………」



総司、怒るかな。


こんな勝手なやつ、許せる性格じゃないもんね。


置手紙でも、した方がいいかな……


でも、なんて書けばいいかわからない。


第一、時間がないか。


一瞬迷ったけど、すずり箱を手放す。


さあ、出て行こう。


そう思った時だった。



「何してんだ、小娘」



地獄の底から響くような低い声が、背中を突き刺した。