幕末オオカミ



「芹沢は!?」



あとから来た土方さんが声を殺してたずねる。



「……やはり、来たか……」


「!!」



その声は、隣の座敷から聞こえた。


そちらを向くと、暗闇の中に、既にタヌキに変身した芹沢がいた。



「芹沢……!!」


「やはり、お主の策略じゃったか、土方」



芹沢は土方さんをにらみつける。


俺はその視線の間を縫って、お梅を探す。


しかしどこにも、女の姿はない。



「お梅はおらんぞ、沖田。
先ほど、逃がしてやったわ」


「な……っ」


「術を解き、記憶を消して、尼寺に送らせたわ。

お前達とて、何も知らない尼を斬るわけにはいかぬだろう……」


「ちっ、あの小娘、しくじりやがったな」



芹沢の予想外の行動に、土方さんは思わず舌打ちした。



「小娘……すると、あの姪っ子か。

あの優しい娘がお前の姪とは、おかしいと思っておったんじゃ。

まさか、間者だったとはのう」



芹沢は楓の顔を思い出したのか、寂しそうに苦笑した。