そうなら、それでもいい。
知らないフリをして、逃がしてやればそれで済む。
しかし、俺がその場を離れるまで、楓の気配は八木邸から動こうとはしなかった。
任務をまっとうする気なのか、それとも……。
宴会の時間内に、姿を消すつもりなのか。
「沖田、一杯どうだ」
土方さんが行ってしまったあと、今度は斉藤が話しかけてきた。
「いや……俺はいい」
「飲め。少しは楽になるだろう」
「斉藤……」
斉藤は涼しい顔で、俺に杯を差し出した。
仕方なく受け取り、それを飲み干す。
苦みと独特の香りが、嗅覚を麻痺させた。
「うまいか?」
「……甘いものがほしい」
「なんだ、相変わらず飲めないのか」
斉藤は苦笑した。
「……そんなに心配することはなかろう」
「は……?」
「いや、独り言だ。聞き流してくれ」
斉藤はそう言うと、酒を持って芹沢の元へいってしまった。
なんだ、あいつ……。



