幕末オオカミ



「そんなことはありませぬ。
きっと、素直になれないだけでしょう」


「そうかのう……

お梅を手に入れるために身につけたもののけの力……

どうも、あまり役に立っていない気がするんだがのう」



は!?


お梅さんを手に入れるために、意図的にもののけの力を授かった……ってこと!?


そんなことできるの?とり憑かれてるんじゃなかったの?


……たしかお梅さんは、呉服問屋の菱屋のご主人の妾だった。


芹沢が、菱屋で作った着物の代金を取り立てに来たお梅さんをむりやり手篭めにして、その後なぜかお梅さんの方から菱屋を出て、芹沢のところに来たって話だった。


山崎監察からの情報だ。



「役に立つのはこれからです。

近藤派の幹部は、ほとんど妖術が使えるという噂。

ただ剣の腕が立つだけでは、いくら芹沢先生でも苦戦なさるでしょう」


「そうか……そうだった、お梅のことだけでなく、その問題もあった」



突然、二人の声が低くなった。


誰にも聞かれてはならない話をする時、誰でもそうなるように。


あたしは様子を見るのをやめ、天井にピタリと耳をつけた。


ってか、妖術ってなに?


幹部がほとんどそれを使える?


それこそ聞いてないんだけど……。


あたしが聞いてるのは、幹部は狼と化した沖田を静止する力があるってことだけ。