幕末オオカミ



「うわぁぁ!!」



浪士の悲鳴で、我に返る。


視線の先では、沖田が浪士の首を右手でつかみ、月に照らすように、その身体を持ち上げていた。


なんて怪力……。



「た、たすけ……」



そんな命乞いは、聞き入れられない……。


沖田の空いた左手の長い爪が、月に向かって振り上げられる。


それは浪士の胸を引き裂く。



「!!」



浪士の体は沖田の手から離れ、跳ね上がった。


血しぶきと一緒に、月光に照らされたのは、一瞬。


どしゃ、と地に伏した身体は、二度と動かなかった。


死んでしまった……。


決着がついたのに、沖田はもとに戻らない。


それどころか、ぐわう、とうなった沖田は、浪士の遺体に飛び乗った。


刀を腰に差したまま、さらに爪をふりあげ、浪士の身体をいたぶろうとする。



「ちょっ……」



おかしい。


さっきまでの沖田とは、明らかに違う。


戦意喪失した敵を前に、刀をおさめた沖田。


彼の面影は、そこにはない。