穏和な庵さんが煽りながら囃し立てるのも、遼太さんが苛立ち拳を出すことも、
この状況の全てが珍しい。
「その口、閉じろ」
あまりに本気の声色に、俺は此処から逃げ出したくなった。
窓越しに入り交じった声が多方向から聞こえてくる。外の空間の賑やかさと、この身が凍るような殺伐感の差が酷い。
「えらく体は正直なんだね?気持ちは強情なのに」
掴まれた胸ぐらを庵さんが叩き落とす。庵さんにしては冷たい声に笑い方。
何一つ曲げない遼太さんに麻痺を切らし苛ついているようにも見えた。
蚊帳の外にいる俺でも、何を話しているのかは分かる。
お互い何に苛ついているのかも嫌でも分かってしまう。
前を見据えて並べていた肩はいつしか向き合い、互いを睨み付けていた。
―――――どうして俺は此処にいるのか誰か教えて欲しい。
ただ、緊迫した空間に内心怯えるだけで俺が此処に居る必要性すら感じない。
ただ、総長に頼まれて庵さんを探しに来ただけなのに。こんな殺伐で危険な場面に遭遇するとは。
「勝手にしろよ」
先に視線を逸らしたのは遼太さんの方だった。
廊下に足音を響かせ進む。お互いの肩がすれ違い、顔も背中も見えない。
二人が見つめるのは、何もない長い廊下の先。
先に遼太さんは殺伐とした空間から抜け出す。
「俺は、俺の好きなようにする」
―――――意味深な言葉だけを残して。

