――――「りょ、遼太さんっ!」
思わず叫んでしまった。
否、俺が止めず、誰が止める。
何度も叫べば喉が枯れそうなくらいの声量だった。
――――ピタッ
それと同時に擦れ擦れで止まった拳に一息つく。
庵さんの言葉に素早く遼太さんが胸ぐらを掴み拳を振り被ったから俺は慌てて叫んだ。
離された胸元を直しながら庵さんは俺に目をやる。
「止めなくて良かったのに」
笑った庵さんはこの状況を楽しんでいるかのようにも見えた。
遼太さんが手を出させるように仕向けるなんて、ある意味質が悪すぎる。
遼太さんは本当に冷静な人だ。誰彼問わず喧嘩腰だが認めた人には滅多に手は出そうとしない。
…なのに、今は違う。
それも庵さんに、だ。
相当頭にキているらしい。
「まさかそんなにキレるとは思わなかったよ。図星だった?」
ほんと策士だなこの人は。ある意味一番敵に回したくない。同時に一番怖いかもしれない。
総長もそうだが“ある意味”総長は大丈夫な面が多い。今は尚更。“ある意味”とは響子さん関連。
響子さんが居ると始終総長の機嫌はすこぶる良好。
逆に響子さんに何かあれば…
考えるのも恐ろしすぎる。

