1人の男の子が私に近づいてくる。そのシルエットには見覚えがあった。
「響子さん!俺を奴隷にしてください!なんなら下僕にでも!」
「バカか!やめろ変態!」
「そうだそうだ!」
「引っ込め!帰れ!」
「響子さんが穢れる!」
「蒼衣さんの下僕にでもなっとけ!」
「ちげえよ!懺悔のつもりなんだよ!ねえ!?響子さん!」
あまりの必死さが怖い。いまにでも掴みかかってきそうな勢い。
まず彼らは声が大きい。一人一人の声が馬鹿デカイ。鼓膜が破れそうになる。
懺悔と言う彼に私なんかに謝罪はいらない。と意を込めて話掛ける―――――‥
「た、平良(タイラ)君。わたし本当に気にしてな、」
「き、聞いたかテメエ等ー!き、き、き、響子さんが俺の名前を覚えててくれたっ!」
涙ぐみながら言った。
それを皮切りに私の周りにわらわらと人が集まってくる。
「響子さん!俺も!」
「えっ」
「俺覚えてますか!?」
「俺はどうっすか!?」
「俺も俺も!」
一斉に話されると聞き取れない。戸惑う私に―――――優しい声が聞こえた。
「響子」
綺麗に微笑む彼はプラチナの髪がよく似合う。
「…庵」
「どうしたの?倉庫に用があるなら迎えに行ったのに」
「響子ちゃんはアタシと来たんだ!」
「寿々と?」
煎餅を食べながら自慢気に言う寿々ちゃん。チラリと私を見る庵に肯定の意を込めて頷いた。
騒がしかった彼らは庵に頭を下げている。その瞬時の対応には流石だと思った。
「2階の部屋に用があるんだけど!」
雑誌は2階にあるらしく、階段を指差す。
「ならおいで、響子」
手を差し出す庵に、躊躇いがちに自分の手をのせる。
私の手を握る庵は優しく笑ってくれた。その笑顔に緊張も和らぎ、ホッする。
「よし!行くぞー!」
階段を元気よく、ピョンピョンと跳ねて掛けていく。
寿々ちゃんならうさぎ跳でも階段を上れそう。
その元気な後ろ姿を見ながら庵に手を引かれ付いていく。
私を囲んでいた彼等に“行ってきます”の意を込めた笑みを向ければ笑顔が返ってきた。

