―――ざわっ





「…」

「…ん?」





ざわつく空気に気がついたのか、ニット帽が声を零す。



微かに聞こえた声。



聞き取れた名前が、



何重にも重なった大きな声に、



大勢のヤツらが一斉に叫んだ大きな声に乗せられた。





「なんか倉庫のほうが騒がしいッス」





それは、倉庫から。



俺は微かに聞き取れた名前に納得する。



声が聞こえなかったのか理由が分からないニット帽は首を傾げる。訳がわからないといった様子で。



俺は凭れ掛かっていたバイクから背を離し、跨がる。



そしてバイクは爆音を鳴らす。





「…もう行けば?」

「え!もう行くんスか!?もう少し話すでヤンス!何なら倉庫にッ」

「俺はこれを取りに来ただけだし」




ニット帽の目線に袋を翳す。



正論を言われて「うッ!」と口を閉ざす。





「――――これでチャラにしといてやるよ」





これは、響子先輩の呼び出し条件その2。



…と言っても



これは密会。誰も知らない取り引き。



コイツは総長さえ騙してコレを渡してくれた。はたして発覚したときどうなるのやら。



コイツはコレが誰の手に渡るのかさえ知らない。哀れすぎるニット帽の立場。俺がこんな要求を持ちかけたせいでもあるけど。





「じゃあね」

「…ま、また明日でヤンス!」





バイクで走り去る俺に、慌てて手を振るニット帽。








――――――此れにて密会終了。

(バイクを走らせながら案外楽に手に入ったと、袋を見て嘲笑った。)