牙龍−元姫−




そして私はあの港に脚を運ばせてしまう―――――雑誌の事なんて既に頭にはなかった。



あの港に残してきたものは沢山有りすぎる。形としてある“物”もそうだけど、目には見えない後悔・幸・想い出。そう言ったもので港は溢れている。



そんな港に、今から行くの?



不安に揺らめく心。








今は有るかは分からない、棄てられたかもしれない。だけど置いてきた“物”には知らない人のほうが少ない童話の本もあった。



よく昔に読んだ馴染み深い有名な童話。絵本でも小説でも私の身近に存在した。



―――まるで私は逃げてきたお城から落としてしまったガラスの靴を拾いに戻る滑稽なシンデレラみたいだと思った。