牙龍−元姫−





「ないないないない。止めて。あり得ない。なんであんな煩いのをアタシが?マジで止めてくれ。アタシは剣で華麗に舞う“ディスペンダ様”が好きなんだからッ!」





真顔で言う寿々ちゃんが怖かった。


“ディスペンダ様”は良くわからないけど、寿々ちゃんが必死なことは十二分に伝わった。





「そっか、」

「アタシが遼ちんのこと好きだと思ったの?」

「う、うん」

「ない。あり得ないさ……って、え?アタシが遼ちんを好きだと思って走ってっちゃったの?」

「…うん」





勘違いだったけど。



恥ずかしい。



羞恥に心が覆われる。



だから、知らない。



気がつくことはなかった。





「え、まさか響子ちゃんって遼ちんのこと―――‥」





寿々ちゃんが素晴らしい勘違いをしていたことを。



なんでその呟きを聞いていなかったのか、なんでちゃんと誤解を解かなかったのか、



―――――私は後に後悔する。