牙龍−元姫−





今度は私から話を切り出す。





「そういえば寿々ちゃんって――――‥」





言おうか、躊躇った。



不意に出てきたことに。



思い出した、



私はあの放課後逃げ出したことを。


簡単に言ってもいいのか躊躇う。




「なになにー?」





興味津々に聞いてくる寿々ちゃん。



さりげなく、さりげなく…












「好きなひとって、誰なの?」





…やっ、やってしまった。





直球すぎた。後悔の念が私を蝕む。


しかし寿々ちゃんは全然気にしていないのか首を傾げる。



この件(くだり)は前にもあった気がする。





「あれ?前に言わなかった?あの放課後、廊下で………ああ!」

「な、なに?」

「響子ちゃんあのとき戻って来なかったじゃん!滅茶苦茶心配したよ!」

「あ…ごめんね?」





いきなり大声で出した寿々ちゃんに驚いた。



でも私を咎める様子が全くなく、本当に心配されてたみたいで申し訳なくなった。



戸惑う私に笑って“無事だったなら良いよ”と笑った寿々ちゃんに更に申し訳なくなった。





「わたし、寿々ちゃんは遼の事が好きなのかと思ったの」

「…」

「寿々ちゃ…ん!?」





返事のない寿々ちゃんに顔を向けると、



生気が抜けていた。