牙龍−元姫−




カウンターに戻ったワシは事の成り行きを蚊帳の外で見守ることにした。



ワシが居なくなったことで再び訪れた沈黙。しかし先ほどのようにギスギスした空気ではなかった。



―――…すると。



淡い桃色の緩いパーマを揺らしながら1人の男がいきなり立ち上がった。迷いのない瞳が響子ちゃんを突き刺す。



少女漫画で描かれてそうな大きな瞳に揺らぎはない。



そして叫んだ言葉に店の雰囲気は呆気にとられた。ワシは呆然と立ち竦む。











「は、はじめまして!大野空です!お、おお、お友達からよろしくお願いします!よっ、翌々は是非ともお食事にでも…!」

「見合いか!」




即座に金色が突っ込んだ。桃色の頭を叩くと掴み掛かる。





「なに言ってんだテメエは!?出会い系サイトで知り合った初対面の奴にする挨拶か!それとも初々しいお見合い大作戦か!ああ!?メル友から友達そんで結婚でゴールインしてハッピーエンドか!?」

「〜ってえな!殴らなくてもいいだろ!?」

「ダメだダメだ。1度テメーの頭は取り替える必要があるぜ。頭貸しやがれ。俺様が特別に手術してやる。天才外科医Dr.リョーの天才医療技術を見せてやる。かの有名なブラックジャックに負けず劣らずだ!テメーはきっと危ない病に掛かっているに違いない…!」



お前がな。



お前さんのほうが危ないウイルスに感染しとる気がするわ。



普通(自称)天才外科医が人の頭を灰皿で殴るか!



ふむ。Dr.リョーはヤブ医者に違いない。