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「……ねぇ。あいつヤバいって言ってたけど本気で相当ヤバいわ。犬と会話なんて頭イカれてるわよ」

「……俺様の耳が可笑しくなったのかと思った。マジで会話してたのか。しかも仙人って何…?ただ“わんわん”って吠えてるだけにしか聞こえないんだけど…」

「わ、わたしも…」

「ヤバいわ。キチガイだわ。犬と会話なんて…!前々から可笑しいとは思ってたけどココまで可笑しかったなんて…!」

「ヤバい泣けてくる。あきらかに変人なんだけど…!見てよ、買い物袋をぶら下げた主婦が自転車を止めて変な目で見てる…!」





私たちは輝君と柴犬を盗み見る。



攻防戦を繰り返していた男と犬はいつの間にか向き合っていた。輝君は胡座を掻いて犬に喋っていた。





《ほお…これは王冠と言う名なのか。よく出来た“きゃっぷ”じゃな。これを“これくしょん”にするとは目利きの良い若者ぞ》

「だろ!?それが何の蓋かは知らねぇけどなぁ。おいおい、そんな目で見ても遣らねぇぞ。


あ、でも……


(ごそごそ)


これなんてどうだ?ただのコーラ瓶の蓋だけど良かったら遣るよ」

《ふむ。恩に切る》









「「(……知り合いに思われたくない!!)」」



里桜と緑川君の心の声が聞こえてくる。



2人からすれば“わんわん”としか聞こえない。もちろん私も。



でも本当に輝君が柴犬と話せるのなら、少し羨ましく思った。





「さあ響子行きましょう」

「えっ、輝君は?」

「…流、バイクを押すのよ」

「…りょーかい、ボス」

「里桜?輝君は…?」

「…響子、ダメなのよ。あれはもう末期、助からないわ」

「お、置いていっちゃうの?」

「…仕方ないことなんだよ、響子ちゃん。なぜなら俺が同類と思われたくない。犬と話せしてるなんて等々頭が逝ったんだ」

「そう言うことよ。


…さあ行きましょう」





しんみりとした雰囲気でココを去る私たち。



緑川君は重そうなバイクを押し、里桜は私の手を引いて歩く。



まるでお通夜の帰りのような空気の重さ。



後ろからは愉しげな輝君の笑い声と柴犬の吠える声が聞こえてきた。


それと同時に又もや空気がズシッと重くなる。私はそれを肌で感じながら後で輝君に犬との話し方を教えて貰おうと思った。