「言っただろ?俺は北に情報を売り飛ばしただけだ」

「……なら襲ったのは北っつーわけね。鬼神じゃねぇの?」

「《キジン》?」





目を薄らと細めた蒼衣さんが徐々に理解してきたのか頷きました。



蒼衣さん同様に庵さんも分析しているのか顎に手を添えています。



“鬼神(KIJIN)”



南にいる鬼のこと。



南が鬼なら東が龍
東が龍なら西は狼
西が狼なら南は鬼



それは聞いた話にも出てきました。「闇討ちは《キジン》かもしれない」と。《キジン》は鬼神の事だったんですね。



――――しかし



“鬼神”と聞いた“片桐さん”は如何わしげに眉根を寄せました。



少し考える素振りをしたあとまたあの嫌な笑みを浮かべたのです。









「……ッははは!バカか!テメエらは相も変わらず温いんだよ!“鬼神”なんてもう居ねえよ!」

「居ないだと?」





総長がほんの少し瞳を見開いた気がしました。



だいたい“居ない”なんて、ある筈ないですよね?



南は南で変化もなく変動もなく、普段の“南”として機能しています。



それにあれほどに大きい組織が居なくなれば、何かしら伝わる筈だと思います。



なのに戒吏さんや驚いている幹部の皆さんを見ると知らなかったみたいです。



そしてざわつく倉庫の様子から、誰一人としてその事実を知るものはいません。





「でたらめ吐いてんじゃねえよ。その下らねえ舌引っこ抜くぞ」





ざわつく倉庫内。



“片桐さん”に翻弄されて流れも握られてしまっため気に食わない遼太さん。



まだ自分をセーブし抑えているのは総長の制止。制止さえなければ見るも無残なほどに殴り付けていそうです。