―――あの日の夜。



怪我をして意識が薄れるなか確かに私の視線は捕らえていた。朦朧とする意識する私を彼は抱き上げたのを覚えている。



目の前にいたのは確かに彼だった。





「……緑川、くん」





そう彼が私を助けてくれた。



呟いた私に緑川君が小首を傾げる。





「ん?なに?」

「…っう、ううん。何でもないの」





慌てて否定し笑みを浮かべる。だけど緑川君には全てお見通しなのか困ったよう微笑された。





「また変なこと考えてたでしょ」

「変なことだぁ?……ああ。春の事か。いい加減忘れろよ。アイツなら当分大人しくしてるだろ。流がボコッたんだから」

「……え?」

「ちょおーッと!何言っちゃってんのさ!?俺様がそんな野蛮な事する筈ないでしょうが!響子ちゃんの前でそう言うこと言わないでくれるかな!?」

「やべ。口滑った」

「おい!!当分菓子抜きにするぞ!!」

「何ッ!?復讐か!事実なんだから俺を恨むのは筋違いだろ!野々宮を俺に預けたあと流が春の野郎を追い掛けてボコッたのは変えられねえ事実だろうが!」

「みなまで言うな!」





輝君が食べるお菓子の袋を掴むとぐいぐいと引っ張りあう。



止めるべきなんだろうけど私の意識は別のところへ持っていかれた。





「緑川君…」

「あー。うん。ちょっとだけ殴ったよ」

「嘘つけ。野々宮が意識失った事で頭に血ィ昇ってただろ。蹴り何発も入れてサツが来るまで殴ってたらしいじゃねえか」

「お願いだから黙って」





疲れたように輝君に吐き捨てた。―――――意識を失ったあと私が知らないところでそんな事が起きていたなんて知らなかった。



よくよく考えてみると私はなにも知らない。目が覚めると泣きじゃくる里桜に慌てた緑川君、悪態つきながらも心配そうにする輝君がベッドの傍にいた。