牙龍−元姫−





クスクス笑う僕にジーッと横目で戒吏が見てくる。漆黒の髪の隙間から覗く瞳はゾッとするほど綺麗で何を考えてるのかサッパリ解らない無機質な色。





「タチが悪いな」

「僕の事?戒吏ほどでもないよ」





戒吏は突っ立ってるだけで女の子を虜にするんだからソッチのほうが余っ程タチ悪いよ?



整った顔は正に芸術品。戒吏にはピアノを弾いてほしいな。指が長いから良い音が出そう。乱暴な音を想像させられるけど意外に滑らか且つ繊細な音を奏でそう。



―――なんて戒吏を見ながら考えてみる。



少しはだけたYシャツからは鎖骨が見え隠れしている。無意識に色香を漂わせてるけど蒼よりマシだ。蒼の色気は犠牲者が出る。しかも故意で。








「なーなー、まだ遼太と蒼衣帰ってこねえの?」

「寂しいの?」

「なッ!ち、ちげえよバカ!俺らもどっか食いにいかねえ?アイツらばっかズリィ。暇だしよ〜」





僕の言葉は即座に否定された。でも空よりは馬鹿じゃない。



て言うか空は暇なんかじゃないよね?



僕はテーブルの上に散らばるプリントに手を伸ばした。課題プリントは全部で8枚――――まだ1枚しか出来てないんだけど。



シャープペンシルで殴り書きで書かれた<大野空>



それだけ書かれてその1枚以外は未だ全て空白。



かれこれ数時間はやった筈なのに、余りの結果の無さにプリントを握りつぶしそうになった。



僕が教えてたんだよ?この成績優秀者の僕が。赤点なんか取られると教える側である僕の名が廃るから手解きしてたのに……。



なのにどうして全然出来てないのかな空君?あはは。課題諸とも消してやる。 ( このとき空は悪寒に襲われていた )