牙龍−元姫−


「俺は慎さんみたいになりてえんだよ!体も心も器のデケえ人になりたい!」





へへッと照れながら言う。



目標が大きいのは良いことだよ。でも体格を変えるのは無理なんじゃないかな?だってそれ以上大きくなりなさそうだし。



照れ臭そうにする空に戒吏は哀れんだ瞳で見つめた。



思わず戒吏なんかに同情される空に同情してしまう。





「……慎になりてえなんて夢がないな、お前」





いつの間にかガチャガチャという小煩い音は止んでいた。





「おッ、お前に言われたかねえし!だいたい戒吏もちょっとは慎さんを敬えよ!」

「無理だ」





comma0.5秒並の速さで戒吏は慎さんを敬うことを否定した。



それもそうだと思う…



ギャーギャー騒ぐ空を横目に納得してしまった。







──‥昔、慎さんは戒吏のパシりだったからね。





「アレを敬うのはお前だけだ、空」

「“アレ”とか言うなよ!慎さんはスゲー人なんだからな!」





スゲー人’か…。



知ってるよ、空。僕も、勿論、戒吏も。



確かに戒吏のような磨かれた独自のカリスマ性はない。でも慎さんの人柄は人を心服させる。



『何でもない、ただのお人好し』だけでは牙龍の総長なんて務まらないよ。慎さんは認められて、慕われている。



何だかんだ戒吏も慎さんを認めてるよ。慎さんも戒吏を認めているから牙龍を任せたんだから。





「…………」(ガチャガチャ

「無視すんなよ!」





だからそんなに突っかかることもないんだけどなー…。



ほんと空は聞く耳持たないからね。空には“大人な男”はまだまだ遠いよ。