俺は自然な動作でタバコに手を伸ばしライターに力を込め火を――――――――おっと!あぶねえ、あぶねえ。
禁煙中だったんだ、忘れてた。
蒼が吸いまくってたからよォ、あまりに自然にタバコに手を伸ばしちまった。
―――"蒼が吸ってる"、か
あまりに自然に吸ってるから気にも止めなかったが今思えばそれは不自然なことだ。
『俺よ〜、タバコ止めるわ慎さん』
『……お、おう?ね、熱でもあんのかお前?お前が禁煙って世にも奇妙な出来事だぞ!』
『おいおいそれは俺に失礼じゃねぇ?蒼衣君は本気なんだぜ?本気と書いてマジと読む。俺の眼を見てみな慎さん。マジだ』
『は、はあ!?び、病院行くか?大丈夫か?―――い、いや。禁煙自体はいいことだ!で、でも蒼が禁煙!?一体何の心境の変化だ!エイプリルフールじゃねぇぞ!』
『俺が煙草吸う度に、悲しむ奴がいるからな』
――――――――いまでもその時の蒼の表情が焼き付いて忘れられねえ。
脳裏に浮かび上がる冷たさの欠片もなく優しい瞳に安心しきった表情。渋々といった感じの禁煙みたいな言い方だったが、もう吸わねえって固く誓った顔だった。
なのによ、
「……なんで吸ってんだよ、バカ蒼が」
根性見せろや。あん時のお前の顔好きだったんだぞ、俺は。
勢いよく飛び出して行ったせいかライターがポツンと置き去りにされている。
テーブルの隅に置かれてある紫のライターに手を伸ばし、ポケットに仕舞う。
次会った時に返してやるよ。
“次に会う時”それがいつになるかはわかんねえ。でも状況が悪い方には傾いてなきゃいいがな――――――――裏切りも仲間割れもゴメンだ。
平和が一番、平凡が最善だ。

