「え、いやいや。そんなはずは…」
否定の意を込め、首を振る。一人で自問自答をしながらブツブツと呟く慎さんを黙って見つめる遼太と蒼衣。
しかし何かしら考える素振り見せると冷たいビールの入れられたジョッキを手から離した。木のテーブルに重量があるジョッキが置かれ、ゴトッと音が鳴る。
その音が節目かのように、空気が変わる。
朗らかな慎さんの瞳が真剣な眼差しに一変―――――――此の男が牙龍《前》総長。
現役時代のオーラはまだ健在な様子だった。
ガラリと雰囲気を変えた慎さんは手を顎に添えた。真剣且つ慎重な眼差し。悩めかしくもあり複雑そうな声色で話し出した。
「―――――なあお前ら、ひとつ聞いていいか?」
そんな慎さんに遼太も蒼衣も探るような眼差しで見つめ返す。
明らかに雰囲気が変わった慎さん。こんなオーラを出すのには何かしらの理由がある。その“何か”を二人は探る。
口を挟まずに、ただ慎さんの話しに耳を傾ける。研ぎ澄まされた神経は慎さんの声だけを捉える。
「豪に、会ったか?」
…………“豪”?
その名前にあからさまに眉間に皺を寄せ不機嫌さを滲ませる遼太。
蒼衣も顔に出しはしないが遼太と同様。苛つく気持ちを落ち着かせる為にタバコを吹かせ慎さんに言う。
「会ってねえよ」
「豪って片桐だろ?俺はアイツ嫌いだぜ」
そうやや低い声で慎さんに答える蒼衣に続き、バッサリ嫌いと言い捨てた遼太。机に肘をつきながら言う彼は本気で嫌そうな顔色。

