「慎さんは威厳っつーもんがねえよ。もっとシャキッとしろよなぁ」
テーブルを挟み言い合う二人の姿を見ながら何故かお茶漬けを食べている蒼衣。
蒼衣曰く揚げ物は胸焼けがする。甘い物は吐き気がする。辛い物は苛々する。と、あっさりしたモノが好みらしい様子。
下らない言い合いをする二人を見ながらマイペースにお茶漬けを食べ『やれやれ』といった表情を作る。
「おッ、お前だけには言われたくねえよ!」
そんなマイペースな蒼衣にカチンときて青筋を立てる慎さん。その言葉には遼太も頷いた。
「お前に言われたら俺も終わりだぞ!寝起きみたいなしゃべり方しやがって!無駄に色気漂わすな!振り撒くんじゃねえ!羨ましくなるだろうが!」
最早最後は妬みになっている。
青筋を立てながら蒼衣を睨み付ける慎さんを宥めるべく今まで横で何かを作業していた遼太が動き始めた。
そしてその“何か”を慎さんにスッと渡す。
「慎さん。これやるよ」
「ん?……………待て待て待て。可笑しいだろ。何なんだ、この赤いの物体は」
明らかに先ほどの店の特製辛口ソースより赤みが増しているではないか。見るからに奇妙なソースとは言えない何か。
見た瞬間。即座に慎さんの眉間にシワが寄った。
そんな慎さんに普段ではあり得ない程の人懐っこい笑みを見せる遼太。
不気味すぎる。
八重歯を覗かせキラキラと子供がオモチャを見つけた時のような表情を浮かべる。
「慎さんも食ってみ?案外イケるぜ?な?」
「そ、そうか?」
珍しすぎる遼太の笑みを見てそれを“好意”として受け取ってしまった。
その不気味な笑みを悪意として捕らえなかったのは慎さんの人柄の良さと騙されやすい証拠だ。
後輩のその好意に嬉しそうに串カツを上に乗った赤い物体と共に口に入れた――――――その瞬間には遼太は悪戯な笑みを浮かべていた。

